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インタビュー
[第1回] 若林厚史 / 監督(前半)
//プロフィール
1964年生。竜の子アニメ技術研究所に入所し、アニメーターとなる。その後スタジオぴえろにて「幽々白書」の作画監督、「NARUTO」の演出などを担当。
-若林さんは、今回の「グイン・サーガ」が初監督となるわけですが、原作小説はご存じだったんですか?
- 若林
- 実は、若い頃には全然読んでいなかったんです。監督の仕事が来るまでは、何となく天野さんのイラストの印象が記憶にあっただけだった。実は、僕は20代前半にはファンタジーに思い入れがあんまり無かったんですね。むしろ日本の映画や時代劇が好きでした。
-今回、原作を読んでどんな事を考えました?
- 若林
- 正統派のヒロイック・ファンタジーという意味では、日本でもっとも最初の頃に生まれた作品じゃないですか。それまでは日本人が書く作品は、もっと伝奇的な「帝都物語」のようなものをイメージするのが普通だったと思うんです。
この作品に影響を受けた人達が、その後に続いてファンタジーを生み出して行ったんだなと。原典の作品というのか、ファンタジーの原型を見せられたような感慨深い印象がありました。素朴だけど力強さを感じるんです。
-若林さんは、もともとアニメーターとして活躍されてきたわけですが、アニメの世界に入ったきっかけというのは何だったんですか
- 若林
- 最初からアニメーター志望だった訳ではないんです。就職先を探す時期になったとき、たまたま竜の子[*1]のアニメ技術研究所がアニメーターを募集していたんですよね。アニメーションという分野にも少し興味があったので、受けてみたら受かってしまった。そこには1年しかいませんでしたけど、松本憲生くん[*2]たちも同期だったりと、いろいろな出会いがありましたね。
それでフリーになって原画の仕事をやってました。その後、初めてスタジオに入ったのがスタジオぴえろ[*3]だったんです。
-ぴえろにはどういう経緯で入ったんです?
- 若林
- たまたま、新房昭之[*4]さんという演出家と出会いまして、「今度新番組あるんだけどやらないか」と誘われたのが「幽々白書」だったんです。ほとんど新房さんの回に強制的に入るようになってまして、自分としてもやりやすかったのでそれをやってました。
ぴえろでは、僕は特定の作品に集中的に関わることが多くって、たとえば松本くんみたいに手広くいろんな作品をやって活躍してる人たちをちょっと羨ましいなと思うこともありました。でも、自分はあんまり器用じゃないから、同時に一つの作品にしか集中できないんですよね。だからあんまり手を広げるってことはできなかった。
-アニメーターから演出に変わられたのは、どういう考えがあったんです?
- 若林
- 結局ね、他の人のコンテで描く事がイヤになったんです(笑)。自分でシーンの流れを考えて、自分で原画を描いた方がおもしろいし、楽だなあと。もちろんうまい演出の人と組むと、非常に気持ちよく原画の仕事ができるんだけど、毎回そうはいかない。じゃあ自分でやるしかない、と思って演出をやり始めたんです。
-初めて演出をした作品は、何だったんですか
- 若林
- まず、最初にコンテの仕事を回してもらったのが、「ワイルドアームズ TV」[*5]の第3話でした。コンテを描く感覚を掴みたかったんだけれど、「こんなに大変なんだ」と少し挫折感を味わいました。でも、どのくらい体力を使うか分かったから貴重な経験になりました。その後ですね、「攻殻機動隊 S.A.C.」の7話の演出の仕事が来たのは。
-攻殻の後が、NARUTOの30話[*6]なんですか?
- 若林
- ええ、そうなんです。攻殻の担当回が終わった直後が、NARUTOの制作が始まっている頃だったんです。たまたまぴえろの中をフラフラ歩いていたら、NARUTOの監督から「はい」ってシナリオをいきなり渡された(笑)。それが30話だったんです。
-それ以降、NARUTOでは年に一度ほど凄いアクションの回を担当されてますよね。
- 若林
- ああいうのって、一年に一本くらいしかできないんですよ(笑)。手間も予算もかかっちゃいますからね。半年に一本なんて無理なんです。
-そして、今回のグイン・サーガの監督となるわけですね。初めて監督となってどのように考えましたか?
- 若林
- 監督になってしまうと、自分で全てに手を下せるわけではなくて、人に委ねる部分が多くなってくるんですね。そこら辺は仕方がないんです。だからアクション作画ではなくて、演出面で盛り上がる部分を作らなければいけないですね。
シリーズの監督であれば、キャラクターの捉え方もぶれずに作れるわけですから。そういう全体をまとめるという仕事に、今回は挑戦したいと思っています。
(取材・構成 村上泉)
備考
[*1]竜の子
竜の子プロダクション。「タイムボカン」シリーズ、「ガッチャマン」などで知られるアニメ制作会社
[*2]松本憲生
日本を代表するアニメーターの一人。
[*3]スタジオぴえろ
「幽々白書」、「NARUTO」などで知られるアニメ制作会社。
[*4]新房昭之
「The Soul Taker ~魂狩~ 」、「魔法少女リリカルなのは」などで知られるアニメーション監督。
[*5]「ワイルドアームズ TV」
「WILD ARMS~Twilight Venom~」。1999年に放映されたTVアニメーション。
[*6]NARUTOの30話
第30話「蘇れ写輪眼! 必殺・火遁龍火の術!」。シリーズ中でも屈指のアクションが楽しめるエピソード。若林厚史は他に71話、133話を担当。